寓話


【風使い】

 北の端の宿場には一軒だけの宿屋があって、屋根裏部屋には「風使い」が住んで
いました。
 ときどき、風使いのもとを誰かが訪ねてきます。
「私の息子は、どこでどうしているだろうか」
 そういったことを尋ねるためです。

 風使いは、星に尋ね、そうして風を呼びます。
 風の話を聞くと、こう答えるのです。
「ああ、南の港町で元気にやっているよ。年が変わる頃には帰って来るんじゃないの
かな」

 お婆さんは帰ってゆき、風使いは、次の風の声に耳を傾けるのでした。


【夢商人】

 この街では、夢を買うことができました。
 もちろん、夢というのは、かなわないとしたものなので、お金を出して夢を買った
ところで、それが本当になるわけではありません。

 けれど、夢は案外安く買うことができたので、割合繁盛したそうです。

 人々は、嵐に閉ざされた夜など、自分の夢を比べあったと言うことです。


【似顔絵屋】

 街の似顔絵屋は、絵描きではありませんでした。
 絵描きではありませんでしたが、部屋一杯に似顔絵を並べていました。

 ほんのときたまお客が来ると、似顔絵屋はしばらくの間、お客を眺め、
そっと1枚、絵を差し出すのでした。

 街でたったひとりの似顔絵屋は、街でたったひとりの風使いの母親でした。


【夕暮れ屋】

 北の街では、大切な約束はきれいな夕焼け空の下で交わすことになっていました。
ですから、この街にはもちろん「夕暮れ屋」がいたのです。

 約束をする日が近づくと、人々は夕暮れ屋に少しばかりのお金を払いました。そし
て、街外れのテントで、約束を交わすのでした。
 もちろん、「今日も良い夕焼けですよ」と、そう言って、夕暮れ屋がテントに入っ
てくるのを待って、それから、厳かな気分で約束を交わすのです。

 約束が破られてしまうこともありました。
 それは、きっと、夕暮れ屋が嘘をついたからなのです。ですから、約束が破られた
ときには、人々は夕暮れ屋にお金を返してもらったのだと言います。


【雨屋】

 何かの具合で、雨が降らなくなることがありました。
 雨というのは、やはり必要なものですから、日照りが何日も続くようになると人々
は雨屋に雨を降らせてくれるように頼むのでした。

 雨屋に注文するときには、いつもひとりきりで出かけなければなりませんでした。
昔からそういう決まりになっていたのです。そうして、雨屋に注文したことを誰にも
話してはいけないことになっていました。

 雨屋は、注文がまとまると雨を降らせたと言います。
 だから、人々は、日照りが続くと雨屋に注文にゆき、雨屋は雨を降らせたのだと言
います。



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Nagi -- from Yurihama, Tottori, Japan.
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