少女は大志を抱いた

「今年は……」
「うん?」
「コンサートに燃える」
「コンサートって?」
「もちろん、恒例夏の大爆発コンサート(しっかし、なんつう名前なの)」
「それには異存はないが……」
「その中でも、『セクションバトル』」
「なに? セクションバトルに燃えるの?」
「そう」
それを聞いて、なぜか力なくうつむく涼介に、私は繰り返した。今年は、「セクションバトル」に燃える。

私たちは、「駅前商店街吹奏楽集団」という、まったく身も蓋もない名前の楽団に所属していたりする。
まったくその通りで、商店街で、吹奏楽集団なんだけど、これはもう、今を去ること何十年か前に、いっちょ商店街夏祭りでもやってみるか……と、それだけで結成されたという勢いだけの集団。
まったくの勢いだけでできてしまったわりには長続きしている。それも、この「駅前商店街吹奏楽集団」の団員の家に生まれたからには、この楽団に入団するという不文律ができあがったことによる。
それはともかく、発端が商店街夏祭りだったというだけのことはあって、毎年夏にはコンサートをやる。それが、「恒例夏の大爆発コンサート」
そして、「セクションバトル」っていうのはコンサートの中でやっている楽器紹介を兼ねたイベント。
吹奏楽というと、いろんな楽器が集まっているわけで、これをグループ――木管楽器・金管楽器・打楽器――に分けて、ちょっとした演奏をやる。これが楽器紹介になっていて、最後に人気投票があったりする。

吹奏楽の楽器は、三つに分けられる。
まず、木管楽器。これはおおざっぱにいえば笛の類。大切なことは、普通の人がちょっと吹いても、まともに音は出ないということ。
次に、金管楽器。おおざっぱにいってラッパの類。これまた、普通の人がちょっと吹いても、まともに音は出ない。
最後に、打楽器。普通はパーカッションっていう。太鼓の類といえばそうなんだけど、もっといえば、「その他」の楽器の総称でもある。そして、大切なことは、この楽器はたいてい、普通の人がちょっと叩いただけで、それなりの音が出てしまうということ。
木管にしても金管にしても、ちょっと吹いただけじゃ音は出ないし、普通の人は近くで見たこともないしで、なんか難しそうな気がする。けど、それに比べてパーカッションといえばまあ、なんか、小学校の音楽室でも見かける楽器だし、なにより、「叩けば音が出る」し、まあ、ちょっと馬鹿にされているような気もするわけ。
実際、去年の「セクションバトル」の投票結果は、木管四七点・金管四八点・パーカッション五点。
これじゃあんまりだと思う。

そうそう、自己紹介がまだだったわね。と思ったけど、ここまで書いてしまったら私がどういう人物なのか、わかってしまったと思う。
「駅前商店街吹奏楽集団」のパーカッション所属。年齢十六。親子二代のパーカッション人生よ。あ、名前は恵。
で、なぜかパーカッションは、同級生ばかり三人。ひとりは、冒頭でいきなりうつむいている涼介。もうひとりはいつもきっちり二十分遅れて来る大貴。
あと……今でもメンバーなのかな? 地元を離れて大学生に行ってる梨奈姉さん。
こんなメンバー相手に、今年は燃えるぞ――宣言したところ。

「セクションバトルに燃えるってね――だいたい、パーカッションでどうすりゃ良いんだよ」
「あんたね、人間っつうのは、与えられた役割を立派に果たしてこそというものよ」
「そういうおまえは、パーカッションで本当に満足なわけ?」
「うん」
「え?」
長々と、パーカッションは馬鹿にされるとか、誰でも叩けば鳴るとか書いてきたけど、パーカッションは好き。パーカッションってね、スパイスなの。スパイスのない料理でも確かに食べられる。味付けによっては、そこそこおいしいかもしれない。でもね、きっちりスパイスが利いたお料理食べると、もう、スパイスなしじゃ味気ないってものよ。

「じゃ、ま、俺よりうまくなってくれ、まず」
涼介が痛いところを突いてくる。さんざ悪態ついてたけど、涼介はうまい。これは保証する。
「涼介よりうまくなるって……そんな無茶な」
「いや、燃えるのは勝手だけど、へたくそなまんまで燃えても迷惑なだけだ」
いちいち正論。そこに、実にタイミングよく大貴登場。
「涼介、また、めぐをいじめてるのか?」
「うん、涼介がね、いじめるの」
「どうしたんだ、今度は」
「涼介がね、私に自分よりうまくなれって言うの」
「それは……無理かもしれない」
「なによ、大貴までいじめるの」
「そもそも、どうして、めぐが、うまくならなきゃならないわけ? そんなに急に」
「いや、今度のセクションバトルで、燃えるんだと恵は」
「どういうこと?」
私たちは、大貴に話の流れを説明した。

「いいね、それ、やってみようか」
「ほら、そう思うでしょう、大貴」
「おい、じゃ、俺より、うまくなってくれよ恵」
「わ、わかったわよ、うまくなってやろうじゃないの」
「できるのか?」
「できるわよ、やってやろうじゃない」
「それで、努力すれば結果は出るなんて言いたいわけ?」
「そんなこと言ってないでしょ。そりゃわかる。努力したくらいで涼介よりうまくなれるかどうかなんて、わからない。第一、涼介も努力するじゃない。そんなこと言い切れるわけがない。でも、ちゃんと努力すれば、少しは変われるでしょう? 私は絶対にいや、このまま同じ場所でじっとしているだけなんて」
「……そうか」
「うん」

ふと、涼介の表情がとっても優しくなった気がする。
「わかった、練習につきあってやる」
「え?」
「だからな、練習につきあってやる。早速明日からな。じゃ、明日朝六時」
「朝六時?」
「そう」
「あの……夕方とか?」
「夕方は普通の練習がある」
「朝六時って、そんな……」
「うまくなりたいんだったら、来い」
「うん……わかった」

明日のことを思うと、ちょっと――かなり気が重いまま、私は帰宅した。まあ、いいか、朝から涼介と二人っきりだし――って、何考えてるのよ。だめだ、頭の中ぐちゃぐちゃ。でも、コンサートって、八月十三日。その前に夏休みがあるじゃない。えっと……一週間もすれば夏休み。涼介も、別に早起きが趣味ってわけじゃないはずだし、夏休みになれば、ちょっとは楽できそう。
私は、このとき完全に忘れていたのだった。夏休みになるのは何も私たち高校生だけじゃないってことを。

翌朝、ぎりぎり六時に練習場に飛び込む。
「おはよ〜」
「おはよう、めぐちゃん」
「え?」
そこには、とってもすてきな笑顔の梨奈姉さんがいた。
「涼介から話は聞いたわよ。それでね、涼介が起きられないからって、代理で来たわけ」
代理って……涼介、裏切ったな。

あれ? 書いてなかったかも。実は梨奈姉さんは涼介の本当のお姉さん。今は音大でパーカッション専攻している。その関係で、「市民バンド指導の経験を積む」ために、よく「吹奏楽集団」にやってくる。端から見ていると、絶対遊びに来てるとしか見えないのだけど。今回は夏休みの間、しっかり「経験を積む」つもりなんだという。

「じゃ、めぐちゃん。一緒にがんばりましょう」
「は、はい」
「目指せ、セクションバトル、一発逆転パーカッション!」
「あ、はい」
なんか、姉さん、妙に盛り上がってない?
「じゃ、スネアのロールから」
「いきなりロールですか?」
姉さんったら、私がロール苦手なの知ってるのに。あ、ちなみにロールってのは、ダダダダダって続けて太鼓を叩くやつ。ついでにスネアは……あ、小太鼓ね。
「じゃ、手首柔らかく」
動じない姉さん。しかたなく私はロールを始める。その間にもなにやら、姉さんがつぶやく。
「今、六時過ぎでこの後学校に行かなきゃならないし、八時に飛び込むのは危険すぎるから、七時半にはここ出ないと」
「あ、私長距離走も苦手」
「そうね、じゃ、今日は七時には片付けを始めるとすると、時間が足りないわね、明日は五時始まりかしら」
一瞬、私の手が止まった。
「めぐちゃん、ロール止まったわよ」
姉さん、容赦がない。

そうこうするうち、朝のしごきを、なんとかこなして、そのまま学校行って、これまた授業をなんとかこなして、今度は夕方の練習。
「じゃ、合わせます」
あ、梨奈姉さんの声。じゃ、姉さんがタクト振るんだ。あ、タクトって指揮棒のこと。で、タクト振るってことは指揮するってことね。
吹奏楽にも指揮者というのがいて、特に全体練習のときなんかは練習を仕切る。普段は先生――といっても、学校の先生じゃなくて、涼介のお父さんが指揮者をやっている。考えてみれば、単なる商店街の八百屋なのに音楽一家ね。(それも、パーカッション一家であるのは言うまでもない)
たまに、姉さんが代理で指揮をする。今日は、姉さんが指揮をするんだ。
「よろしくお願いします」

こうして合奏が始まった。
「トランペット、今のところちょっと遅れるので気をつけてくださいね」
うんうん、良い感じ……と。
ところがしばらくすると、
「めぐちゃん……今のところちょっと遅い」
「え?」
「もう一度」
「は、はい」
何度か繰り返したけど、うまくいかなくて、「じゃ、あとでもう一度やっておきましょう」ということになった。
変だな? 別に難しいところじゃない。ゆっくりとした、トランペットとのユニゾン。それに、私自信ある。ずれてなんかなかった。釈然としないまま合奏は終わり、パート練習の時間になった。

「めぐちゃん、じゃ、さっきのところ、やってみましょうか」
「はい……あの、でも絶対ずれてなかったと思います。ちゃんと聞いて合わせてました」
その瞬間、涼介がずっこける。なぜ?
「ずれてなかった?」
「はい」
「自信がある?」
「はい」
「じゃ……明日の朝、ちゃんと説明してから練習しましょう。パーカッションだけの方がわかりやすいから。大貴君もつきあってくれる?」
「はい。がんばりましょう、セクションバトルに向けて」
「じゃ、明日五時……って言いたいけど、あんまりだから、六時で良いわ」

翌朝、姉さんは、ボイスレコーダを取り出すと指揮者の場所に置いた。
「じゃ、めぐちゃんステージの右端。涼介左端。大貴君中央にお願い」
三人は言われた位置についた。姉さんは指揮者の位置。その状態で、リズム打ちをする。
あれ? 合わせられない。涼介に合わせるにも、大貴に合わせるにも、なんか少し違う。
「めぐちゃん、合わないでしょう?」
「はい」
「じゃ、今度はめぐちゃんと涼介だけで」
今度は、聞いていてぴったり合わせられた。
「聞いてみましょうか?」
姉さんがボイスレコーダを再生する――ずれてる。
「……ずれてる。だって、ちゃんと、涼介の音とぴったりに叩いたはず……」
「離れたところにある楽器は、聞いて合わせちゃいけないんだ」
突然涼介が話し始めた。
「楽器どうしが離れていると、自分で聞いてぴったり合った音は、客席から聞くとずれて聞こえるんだよ」
「変よそんなこと。ちゃんとぴったり聞こえたもの。それに、聞いて合わせられないものを、どうやって合わせるのよ」
「だからタクトがある」
「そうよ、めぐちゃん。合奏の音はね、耳で聞いて合わせちゃだめなの。タクトを見て合わせないと」
「そんなこと……涼介は、知ってたの?」
「まあ、パーカッションやってるんだから、常識に近いかな」
「え、大貴も知ってたの」
「ううん、はっきりとは知らなかったけど……でも、近くの楽器と遠くの楽器とじゃ音の合わせかたはちょっと違う気がする」
「え、知らなかったの私だけなの?」
「まあ、そうしょげないで。他のパートって同じパートの人たちってほとんど隣に座ってるわけでしょ? パーカッションは、そもそもステージの端と端にいたりするし、他の楽器とひとりで合わせないといけないし、パーカッションだったら、とっても大切なことね」
常識って……ちょっとばかり落ち込みながら、ふと考えた。そんな、「常識」とまでいうことを、涼介はなぜ教えてくれなかったんだろう?

「だからね、めぐちゃん。吹奏楽くらいだと指揮者が必要なわけ」
「うん」
「じゃ、音を聞くんじゃなくて、タクトを見てきっちり合わせて。そして、そのときに涼介と大貴君の音がどのくらいずれて聞こえるか感じて」
「はい」
約一時間。場所を変えたり、テンポを変えたり、それでもなんだか、「タクトに合わせる」って、わかってきた気がした。

「ところで涼介」
学校に急ぐ道すがら、私は気になっていたことを尋ねる。
「どうして、『耳で聞いた音は、ずれる』って教えてくれなかったの?」
「あ、知ってると思ってたから」
「うそ。涼介だったら、私の音がずれてるの気づいてたはずでしょ。せめて音がずれてるくらい言ってくれてても良いじゃない。姉さんだってそうよ。昨日まで気がつかなかったはずない。だのに、昨日までは何も言ってくれなかった」
「ま、それだけ燃えてるんだろう、姉貴も。だから昨日は注意したのさ」
「それだけかな……でも、これまでずれた音のまま演奏してたのに、注意しないなんて。姉さん、絶対、そんないい加減な性格じゃない」
「それは、おまえを――恵を一人前のパーカッションとして認めたからだよ」
「これまで、素人だと思ってたわけ?」
ま、落ち着け。そう言って、涼介は話した。
「あのとき、姉貴もちょっと迷った感じがしただろう? どっちにしても、そんなひどい演奏をほっとくわけはない。ずれてるっていっても、確かに、ほんのちょっとだったんだよ。そんな、ほんのちょっとのずれを、わざわざ指摘するのが――多分、姉貴には照れくさかったんだ」
「照れくさい?」
「恵に、そんなに細かいところまで気にするんですか――って、そう言われそうでさ」
「私、ずれてるってわかってて、そのまま演奏なんかしたくない」
「それがわかったのさ。ほんのちょっとのずれでも、恵は、言えばちゃんとわかってくれるって」
「だって、そうでしょう」
「俺もそうだ。恵みたいに『パーカッションが好き』って言えなかった。なんか、たかが太鼓叩くのがそんなに楽しいのかって馬鹿にされそうで。だから、そんなに細かいことまで気にするのが恥ずかしいような気がしてたんだ」
「たかが太鼓――なんかじゃない」
「うん、そう思う。恵に、パーカッションで良いのかって聞いたときに、本当に素直に、『うん』って言ってくれた。それで俺も言えそうな気がしたんだ。パーカッションが好きだって」
あ、だから、涼介はあのとき練習につきあってくれるなんて、急に言ったんだ……って、私ほめられたのよね?

その日、夕方の練習が終わって、涼介、大貴と三人でコンサートのことを話していた。
「それで、何やる?」
「何やるって?」
「パーカッションならでは――って出し物、どういう趣向でやるわけ?」
「まだ考えてない」
「考えてないって」

そういえば、燃えるぞ宣言して、基礎からみっちり鍛え直してっていうのは、多分間違ってないけど、じゃ、何をすればいいかって考えてなかった。
「たとえば、十円玉ロールとか?」
これ、決まった位置を確実に叩けるように十円玉をドラムに見立てて乱打する練習法。
「受けるかもしれないけど、それじゃ大道芸」
「そうか」
私たちが少しばかり途方に暮れていると、姉さんが明るい声をかけてきた。
「普通にやればいいのよ」
「普通って、それじゃまるっきり地味だろう」
「普通に、ぴったりリズムを合わせてね」
「ぴったり――ですか?」
「そう、まるでひとりで叩いているように聞こえるほど、ぴったりに」
「それって受けるでしょうか?」
「大丈夫。本当にぴったり合わせれば、聞く人に必ず訴えることができるから」

姉さんの提案をもとに私たちは作戦を練った。
まず、シロホン(ようするに、木琴ね)をベースにする。パーカッションの中では一番難しそうだし、なにより、一番シャープな音が出る。「リズムぴったり」を狙うなら、シャープな音が有利。
パーカッションって、考えてみれば一番バラエティに富んでいる。最初はカスタネットとかでだんだん楽器が増えて大騒ぎっていうのも楽しくていい。あ、でも、これで「リズムぴったり」を演出するのは無理か。なんだ、順番にやれば良いんだ。最初だんだん楽器が増えて、大騒ぎになったところで、シロホンでカッチリ決める。
「シロホンの曲はどうする?」
「そうだな。シロホンはちゃんとメロディのある曲じゃないとまずいな」
「あ、それだけは決めてあるの」
「決めてるって?」
「『朝焼けコンサート』のテーマ曲」
「なに? テレビでやってる子ども向けの音楽紹介?」
「そうそう。あのテーマ曲、しっかり堅いリズムで良いと思わない?」
「そりゃ、良いとは思うけど……」
「うん。曲としては良いね」
「でも、子ども向けだろあの番組」
「なによ、子ども向けとかいって、みんな見てるんでしょ、結局」
「ああ、見てるけどさ」
「いいの、良い曲をきっちり演奏すれば、聞く人に必ず訴えることができるわ」
「なんか、聞いたことのある台詞だけど」

こんな話し合いの末、私たちパーカッションの、「セクションバトル必勝大プロジェクト」はスタートした。
「私も参加して良いかしら?」
「え? 姉さんも?」
「いいじゃない、一応まだ団員なんだし」(え? そうだった?)
「そりゃ、姉さんいたら百人力」
「それに、リズムぴったりを演出するには、人数は多い方が良いものね」
「じゃ、がんばりましょう」

それからも、練習は続いた。
ただ、大きな誤算だったのは夏休みに突入しても早朝練習は続いたということ。
「今年は燃えるわよ」(あ、これ、私じゃなくて姉さん)
「敵に手の内を知られるわけにはいかない」
「セクションバトルの練習はやっぱり、朝しかないわね」
という話がいつの間にかできあがっていた。
でも、でもね、かわいい娘が夏休みだというのに、朝から練習にかり出されたら、そう、家族が同情――してくれなかった。
「吹奏楽集団」では、代々同じ楽器の担当が続くという傾向があって、私の父親もパーカッションをやっていた。そういうわけで、これまた、朝から練習だと聞くと、同情どころか、激励するばかり。果ては、母さんまで、「そうね、八百屋さんのお姉ちゃんにお願いして、練習を五時からにしてもらおうかしら。大丈夫、朝ご飯はちゃんと作ってあげるから」とか言い出すし(頼むから、それだけはやめて)もう、一家総力戦の様相を呈してきた。
だからといって、お昼寝できるかといえば、はい、昼間は地道に基礎練習やってました。

「俺もパーカッションが好きだ」なんて、涼介も、いじらしいとこあるじゃない――なんて思ったのは、大きな間違い。
私は、相変わらず、涼介にも、姉さんにも、ついでに大貴にも、なんか、いじめられっぱなしな毎日を過ごしていた。
でも、私、パーカッションが好き。これまでもそう思ってたけど、もっともっと好きになれた。これは間違いない。

そして、本番。セクションバトルにかまけて他の曲の練習をサボるなんてことはなかったし、むしろ、ひたすら特訓したおかげで、良い感じの第一部が終わる。
いよいよ、セクションバトルの時間。
まずは「選手宣誓」。なんてことはないのだけど、バトルをする木管楽器、金管楽器、そしてパーカッションの代表が仰々しく「我々は……」なんてやるわけ。
木管代表は、本屋の旦那。アルトサックス。金管代表は魚屋。トランペット。二人はそれぞれの楽器を高く差し上げる。そして、わが、パーカッション代表は姉さんって――なぜ、ティンパニー背負ってるわけ? あ、ティンパニーってのは、巨大な風船を真っ二つにした形の太鼓ね。
のっけからパーカッション軍団のただならない気配を振りまいてどうするのよ。ちなみに、姉さんが「背負う」なんて馬鹿なことをしたものだから、音が狂ってしまったって、大貴は泣きながら調整をしていた。

なにはともあれ、木管楽器が「妖精物語(あ、気分が……)」をやり、金管楽器がマーチングでひたすら歩き回ると、いよいよ、パーカッション。
私は姉さんからもらった手紙を握りしめる。
―― めぐちゃん、ありがとう。
あなたも知っていると思う。去年だけじゃなくて、これまでずっとセクションバトルでパーカッションは五点くらいだった。そういうものだと思っていた。
パーカッションじゃ、観客に受けるような音楽も作れない。私たちはずっとそう思っていた。でも、あなたは、パーカッションパートの歴史を変えようとしてくれた。
そんなあなたに、私は感謝しています ――

本番。
コン。音がひとつ響く。誰も動かないのに。しばらくの静寂。そしてまた、音が。
これ、不動太鼓(あ、文字通り動かずに叩くというだけで、大層な意味はない)姉さんの得意技。やがて、涼介がステージ中央のスネアドラムまで歩く。そうして、静かに――ほとんど聞こえないロールを奏でる。
私はトライアングルで参加。姉さんシンバルのロール。音は、少しずつ大きくなる。と、突然大貴がシンバルの一撃。一瞬の静寂、一転、パーカッションたちの音の爆発。
ややあって、「アロー・ロー・ロー」姉さんと涼介の叫び。(あ、人の声も立派にパーカッションなんだって)。
再び音が途絶えると、やがて、シロホンのアンサンブル。四人でぴったりのリズムで。
やがて、シロホンの響きは小さくなり――そして消えてゆく。
と、柔らかなシンバルの音だけが残る――いつの間に鳴り始めたのかもわからない、いつの間にか鳴っていた穏やかなシンバル。
やがて、その音も消える。

「OK」
「うん」
私たちは――やったね!
セクションバトルの結果は、木管四二・金管三九・パーカッション一九。
逆転はできなかったけど、いいよね。私たちは、確かに変わることができた。

打ち上げ。
今年は特に良いできだったと、お酒も入ってみんな大騒ぎ。私たち高校生は、もちろん、お酒なんて全然飲んでないけどね。
そんな中、会場を抜け出して、ひとりで外に出る。静かな夜。私はセクションバトルのことを思い出していた。
ふと、涼介が同じように会場を抜け出して来た。
「五点から一九点に躍進か」
「うん」
「あれ? 一九点で満足しちゃったのか」
「うん」
私は黙って、読んだばかりのアンケートを涼介に手渡した。
「セクションバトルのパーカッションは完璧でした。さすが、リズムセクション。本当にぴったりあったセクションを初めて聞きました。ありがとう」
私のガッツポーズに、涼介はうなずいた。


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Nagi -- from Yurihama, Tottori, Japan.
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