たいへん・赤ちゃん

「たいへんです、助けてください」  そう言って、一匹のねずみが、「ネズミ・ランド」に飛び込んできました。え? ネズミ・ランドを知らないんですか? あ、そうそう、あなたが人間なら知らなくても大丈夫。知っているのはネズミたちだけなんですから。

「どうしました、チュー太君のお母さん」
「大変なんです、ウチの赤ちゃんが」
「え、お宅にはまだ赤ん坊がいましたっけ」
「ああ、そうじゃなくて、私が住んでいる人間の家の赤ちゃんです」
「なんだ、どうでもいいじゃないですか、人間の赤ん坊なんて」
「違うんです。あの赤ちゃんはチュー太が、どら猫に追いかけられた時に、かくまってくれたんです。命の恩人なんです」
「それは大変だ、いくら人間の赤ん坊といっても、命の恩人を助けないなんて、恩知らずの人間と一緒になってしまう」

 というわけで、赤ん坊救助隊が結成されました。その、「人間の赤ん坊」というのは、やっとハイハイが出来るようになったばかりの女の子なんですが、どういう具合か、ベッドから落ちて、そのまま、玄関から落ちて、その上、ドアの鍵がかかってなかったらしく、外に出てしまったそうなのです。

「え、諸君。相手は人間の赤ん坊である。しかしながら、チュー太の恩人である。だからして、諸君には、救助隊を結成して頂いたわけである」
 ネズミ・ランドの隊長さんの挨拶です。
「では、人間の赤ん坊を無事家に帰すというのが、われわれの使命だと考えてよろしいですな」
 こちらは、救助隊長のチューチュー三世です。
「そうだ。ただちに作戦会議に入ってくれ」
「あの、急がないと、赤ちゃんが……」
 と、これは、チュー太のお母さんです。

 さて、ネズミたちの作戦会議の結果、赤ちゃんを驚かせてハイハイの向きを変えさせよう――ってのは、つまり、もときた家のほうに引き返させようということで決まりました。
 ちょうどその頃偵察隊が赤ちゃんを探してきたので、救助隊がいっせいに赤ちゃんのほうに向かいました。
 その数、千匹。いや、ネズミ千匹はちょっと見ごたえがあります。これだけいて、いっせいにチューチュー泣いたりしたら、赤ちゃんもきっと引き返してくれるでしょう。

「せーの」
「チュー・チュー・チュー・チュー・チュー」
 いやはや、ちょっとうるさいですね。
 でも、赤ちゃんは引き返したりしません。
「救助隊長。だめです。赤ん坊は引き返しません。」
「なに、引き返さないだと」
「引き返すどころか、全速力で追いかけてきます」
「なに、追いかけてくるだと」
「どうしましょうか?」
「どうするかだと――そのまま続けろ、なんとしても、赤ん坊を引き返させるんだ」
「了解です、では、援軍を頼んだらどうでしょう。五千匹もネズミがいたら、赤ん坊もこわがると思います」
「よし、援軍要請だ」
 というわけで、今度は五千匹のネズミが
「チュー・チュー・チュー・チュー・チュー」

「や・やっぱりだめです、救助隊長」
「うむ、さらに援軍を要請するか」
「あの、隊長さん、隊長さん」
「ああ、なんです、チュー太君のお母さん、手短にお願いします」
「あの、赤ちゃんが追いかけてくるんですから、無理に追い返さなくても、追いかけてもらえばいいんじゃないでしょうか」
「だって、赤ん坊が我々を追いかけてきたら困るでしょう」
「だから、私たちが、赤ちゃんの家のほうに行って呼びかけたら」
「な・な・なるほど。追い返すのではなくて家まで案内するのですな」
「は、はい」
「それだ、諸君、隊列を変えろ。赤ん坊を引っ張って、家まで連れて行くぞ」

 作戦は大成功。
 ネズミ五千匹に連れられて、赤ちゃんはちゃんと家に帰ってきました。そうして、赤ちゃんのお母さんが気づいた時には、赤ちゃんは家で眠っていたので、ネズミたちの活躍は、多分、誰も知らないと思いますよ。
 そうそう、あなた以外はね。


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Nagi -- from Yurihama, Tottori, Japan.
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